”WINGS”は音楽のジャンルを超えたメッセージだ! 天才集団BTSのシリーズ第2弾はスゴイ!
・これは、WINGSのリリース直後に日本の読者に向けて書いたものです。
前回の ”I NEED U” ”バタフライ” ”Run”と続く青春3部作のセオリーは何通りもあった(これらは、主にヨーロッパのティーンズの間で盛んに議論されていた。私はGoogle plusのコミュニティにいた時に、それを見て来た。)
- 全員死亡説
- ジンだけ生き残って、後のシーンはジンの回想だとする説
- ジンだけ死んでいるとする説
今の所、2のジンだけ生き残って回想しているのが有力と言われているが、実際のところは謎だ。そして”WINGS”へとストーリーは続いて行く。今回の“WINGS”では、ヘルマンヘッセの「デミアン」が朗読され、ストーリーもそれに沿って組み立てられている。
私は一つ一つの謎解きはせず、全体が持つテーマについて語りたいと思う。リーダーのRMが拘っている事は何なのか、そしてファンに伝えたいメッセージとは?
“BIGIN” 15歳の少年が抱く漠然とした不安や恐怖
https://www.tumblr.com/search/bts-short-film-wings
大人と子供の境目で揺れ動く心の葛藤が表現されている。ヘッセの「デミアン」で主人公が描き続ける肖像画や、神でもあり悪でもあるアブラクサスという鳥が全編を通して時々姿を現す。”BEGIN”で、ジョングクが15歳です、と答えるシーンがある。私はこの年代が一番無防備で、死に近い存在だと昔から思っていた。
ティーンズは社会からも大人たちからも守られ、青春期という甘いフレーズの中で、光の当たる場所で輝かなければならないという使命を与えられているように思う。しかし、人生の中で最も危険なのは、この15歳なのだ。大人は皆、分厚い鎧を着ている。言い訳や嘘で塗り固めた鎧。そのおかげで、他人の言葉も直接皮膚に触れることなく日々をやり過ごして行く。鈍感力を身にまとっている。
“Lie” ヘッセの「デミアン」の中でリンゴが犯罪へのきっかけとして出てくる
「デミアン」の中で主人公ジンクレールが、自分を大きく見せようとして小さな嘘をつく。ジンクレールはリンゴを盗んだという小さな嘘から、悪童に脅されてしまう。小さな嘘は、時に犯罪にまで発展してしまうという危険を暗示している。
“Stigma”・・・”I NEED U”の中で犯罪に手を染めてしまう少年の苦脳
花様年華の「I NEED U」で、家庭内暴力から父親殺しに手を染めてしまうシーンがある。その少年の苦悩が表現されている。
“First Love”・・”I NEED U”でベッドに火を放つ少年とリンクしている
これも、花様年華の「I NEED U」で失恋からか、ベッドに灯油をまいて火を放つ少年とリンクしている。
はじめて防弾少年団というネーミングを知ったとき、私がこの漢字の持つ意味がダイレクトにわかる日本人だからなのか、変な名前だと思った。「10代、20代に対する偏見を止め、自分たちの音楽を守り抜く」というスローガンも大層に聞こえた。そして、今回の”WINGS”…なぜここまで暗いテーマを扱うのだろうと思った。しかし、日本語字幕がつけられたMVの冒頭の“BIGIN”でジョングクが言った15歳です、という言葉で我に返った。そして、ヘルマンヘッセの「デミアン」を読んで確信した。
“Reflection”・・TATOOの模様は「デミアン」のアブラクサスという鳥だ
tatooを自分の腕に彫るシーンはDANGERのMVの冒頭にも出てくる。今回はモチーフが「デミアン」のアブラクサスになっている。
BTS のメッセージ
RMが私たちに伝えたいメッセージは決して暗くない。ティーンズの皆に、こう言っている。
絶対に危うい時期に悪魔に手を貸してはいけない。小さい嘘は、大きな犯罪に繋がって自らを苦しめる。友人たちの薬物中毒、精神病、家庭内暴力、失恋から自殺を選ぶ者、危険はいつも隣にある。15歳は特に子供と大人の中間で、もがき苦しむ。でも、生きなければならない。生き残らなければならない。社会や、学校や、大人は守ってはくれない。「人間の使命は、己に戻る事だ」というヘルマンヘッセの「デミアン」の主題のようにRMは一連の作品を通して、一人一人に自分自身で立ち上がれ!というエールを送っているように思う。
“MAMA”
「I NEED U」で、道端に倒れてしまう薬物中毒の少年とリンクしている。
“AWAKE”・・・消息も生死も不明な少年・全編は彼の回想なのか?
JINは、死んでしまったのか、昏睡状態なのかは定かではないが、花様年華は彼の回想だとも言われている。WINGSでは、主人公ジンクレールのイメージとも重なる。ここでも、リンゴが出てくる。“WINGS”の少年達は、ほとんど皆死んでしまった。(JINが生き残っているという説が有力と言われているが、瀕死の状態だ)この主人公たちの姿は、決して他人事ではない。明るい世界と暗い世界は、いつもパラレルワールドのように繋がっていて、いつでもひっくり返る。そしてそこで戦うのは、仲間に囲まれた自分ではなく、たった一人の孤独な戦いなのだ。自己を見つける自分との戦いだ。でも、必ず打ち勝ってほしいというRMの願いがすべての作品に込められている。
普遍的な危うい年代
最終章は時空を超えて中世のヨーロッパをイメージさせているのだろうか?今までの無機質な世界とは違う、豪華で優雅ないでたちの全員が揃った映像になっている。このMVの意味は何だろうと考えた時に浮かんでくるのは、BTSが表現しているもの、そして、ヘルマンヘッセがテーマにした危うい年代というのは普遍的なもので、今の昔もアジアもヨーロッパも無く、ティーンズが抱える超えなければならない宿命だと言っているように思える。
“Boy meets evil” 卵から外に出ようとする少年の苦悩
少年が様々な誘惑や犯罪など、悪魔と出会い葛藤する。「デミアン」の中で、”鳥が卵から出ようとする時“という表現が出てくるが、まさにもがき苦しむ少年の心を表現している。最後にJINが、黒い羽根を付けたアブラクサスの石膏像に接吻する。「デミアン」の中で、最後に主人公ジンクレールにエヴァ夫人の接吻を代わりに送るデミアンとイメージが重なる。アブラクサスは、神であると同時に悪でもある。その存在に気付きそれを受け入れた時に、主人公は自我を見つけるというヘッセのテーマが見えてくる。
防弾少年団・・・やっと、意味が分かった気がした。
彼らはティーンズの代表なのだ。勿論ファンはティーンズだけではない。でも、BTS が守りたいもの,それは、デミアンの主人公ジンクレールのような、純粋でまともな思考回路の中で出口を探している少年、少女達だろうと思う.
“Blood Sweat & Tears” 時代も地域も超えるティーンズのテーマ
「デミアン」の最後で、ジンクレールはアブラクサスを受け入れる。それは神であると同時に悪でもある。悪も受け入れて、己に返り自我を見つけよ、というヘッセのテーマが見えてくる。”花様年華”、”WINGS”, ”NOT TODAY”、また、それ以前の作品も含めて防弾少年団のテーマは一貫している。10代という苦しい時を乗り越えて人生を諦めずに生きてほしい、強くなって負けないで進んでほしい。一緒に歩いて行こうというメッセージだ。
読んでくださった方、ありがとうございました。